消失の惑星(ほし)/ジュリア・フィリップス(著/文)井上 里(翻訳)/早川書房

 『消失の惑星(ほし)』
ジュリア・フィリップス(著/文)
井上 里(翻訳)
早川書房

(あらすじ)
カムチャツカの街で幼い姉妹が行方不明になった。事件は半島中に影を落とす。2人の母親、目撃者、恋人に監視される大学生、自身も失踪した娘をもつ先住民の母親……女性たちの語りを通し、事件、そして日々の見えない暴力を描き出す、米国作家のデビュー長篇。

(感想)
ロシア東端のカムチャッカ半島は大陸と陸続きでありながら空路でなければ半島から出られないという。

八月、幼い姉妹が行方不明になる。さらわれたのか。海で溺れたのか。
名探偵は出てこない。証拠から光をみいだす鑑識も出てこない。

事件が起きた半島に住む人々の日々が照らされる。

当事者でなければ見えない景色がある。少数民族、同性愛者、女、子ども、移民労働者。この単語ひとつひとつがいちジャンルなのではなく、一人一人がひとつのジャンルのストーリーを持っている。声をあげれば冷笑される空気のなかで、それでも声を届けないと「無かったこと」にされてしまう。

この物語に出てくる人たちはわたしたちと同じように、隣人を助けようとして、うまく助けられない。私生活への好奇心が抑えられない。あの人はなぜうまくやっているんだという疑心をもつ。誰も助けてくれないから、逃げ出せずに泥の中に自ら戻る。

わたしたちはいつもまっすぐに正しく生きていられないけれど、数センチ伸ばした手が誰かの救いになるかもしれない。

ロシア少数民族の暦を感じながら再読したい。

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